
自転車通勤。
途中に通る世田谷公園。
散歩途中の犬達がすれ違い様にじゃれ合う様子を尻目に、汗ばんだ背中を意識しながら自転車を漕ぐ。
右側には公園内のプール。
楽しそうな園児達の声。
ネットが貼ってあり中の様子は見えないが30人はいそうだ。
声にならない声が鼓膜を軽快に刺激する。
「わ〜い!」「きゃ〜!」などと言っているのだろうか。
いや、そんな風にも聞こえるが、
「俺達は今、トビッキリの時間を過ごしてるんだぜ!コレまでの人生で一番の至福の一時なんだ。お前らに分かるかい?そこの道行く、おデブなランナーさんよ!」
というセリフを、彼らは一言に縮め、大人には分からない暗号として「わ〜い!」や「きゃ〜!」と言っているようにも聞こえる。
そんな事を、乳首と乳首の間を流れ股間へと向かっていく汗の道筋に感覚を尖らせながら、ボンヤリ考えていたその時。
「抱いて〜。抱いて〜。」
と、女の子の声。
正確に言うと、少しばかり声の低い園児らしからぬ色っぽい声。
おませな園児がいたもんだ。
その発言は男児に言っているのかい?
水着で男子と抱き合うということは、おじさんの辞書によると、全てを許すってことだぜ。
止めときな。お嬢ちゃん。10年後に取っときな。
「抱いて〜〜!」
さらに大きなその声を耳にした瞬間、俺は何かにぶつかり、バランスを崩し、自転車と共に道に投げ出された。
脇には鼻から手と足が生えたように見える、鼻の大きいおばさんランナーが仁王立ち。
どうやら、鼻おばさんとぶつかってしまったようだ。
しかし彼女はびくともしていない。
「抱いてって言ったじゃない。」
俺の耳にはそう聞こえたがどうやら違うようだ。
「どいてって言ったじゃない。」
どうやら俺の耳の梅雨明けは遠いようだ。
立ち去る鼻おばさんの足元には彼女が踏み潰したばかりの「カナブン」の死体。
股間へ向かっていった玉のような汗はヘソにホールインワン。
きっと夏はもうすぐそこだ。
manhattan closet
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