『大丈夫やって。「明けない夜は無い」って言うやろ。』
『けど、逆に言ったら「沈まない太陽は無い」と思うし「来ない夜は無い」やろ...。』
かなりの「下」を向いたネガティブシンキング。まだ真新しい制服を着た若かりし日の私が、「勇気を出して初めての告白」に踏み切った1時間後、馴染みの駄菓子屋での発言だ。野球部仲間であり、共に二遊間を守るショート久本も必死で励ましてくれていたのだが、この発言の3分後には姿を消していた...。
今も度々、この情景をある言葉を耳にするとフラッシュバックのように思い出す。
『ありそうでない』という言葉だ。
「明けない夜はありそうで無い」「沈まない太陽もありそうで無い」
要はこのように言い換えることもできる為かもしれない...。とにかく「ありそうでない」と聞くと、なぜか私は当時のことを思い出し、鼻の辺りがムズムズするのだ。もちろん勉強もろくにせず、白球を追いかけまわしていた私は、「白夜」という遥か遠い国の不思議な現象が存在することを知ってそうで知らなかった...。
ところで、今の世の中、アイディアに見合った技術なんかも発達し「ありそうでない」ものなんて存在するのだろうか?
しかしこれには驚いた。
近い将来、深刻な水不足の時にはアレが奪い合いになるかもしれないし、お金を払ってアレを買うことになるかもしれない。有事に備えアレのダムが造られるかもしれないし、オムツがアレを吸収するのを嫌がり蒸れるかもしれないし、グラビアアイドルのアレから作られたソレが「週刊プレイボーイ」のプレゼントになっ...、この辺でやめておこう。「下」を向いてしまうとどこまでも「下」に向かってしまう悪い癖は、どうやらあの頃から変わっていないようだ...。
ところで、どんな企業にとっても「ありそうでないもの」を作ったり発信したりすることは、隙間産業という観点から見ても大事なのではなかろうか。
かく言う私も、昔から温めてきて、いつか大儲けしてやろうと企んでいる「ありそうでないもの」を思いついている。
それは「エビ焼き」だ。ご存知、皆大好き「タコ焼き」の海老バージョン。
21歳まで、あのロックスターを「エビルス・プレスリー」だと思っていた程の自他共に認めるエビ好きの私。そんな私が天の声により思いついた、タコの代わりにエビを入れるという画期的な一品。旨いに決まっている。
思いついたのが14歳の時。私は「エビ焼き」の話は仲の良い友達にも言わなかった。もちろん、ショート久本にも言ってなかった。共に二遊間を守る仲だったが仕方ない。先に誰かにやられてしまっては元も子もなかったからだ。
計画は水面下でひっそりと行われるはずだった...。
それから18年が経とうとしていた去年の秋だったろうか。それは車で小旅行に向かっている途中だった。何気なく休憩に寄った、とあるサービスエリア。なんとそこで、長年温め、夢にまで見た「エビ焼き」を発見してしまったのだ...!
もちろん、大人になってからも誰にも言っていない。なぜだ?!ショート久本に感づかれていた?寝言で「母ちゃん、こんなにたくさんのエビ焼きなんて食べれないよ〜...。」と言ってしまった?ならば母ちゃんとショート久本は親密な間柄だった?あ〜っ!前忠さん!ホントのところどうなんですか〜!
...頭を抱え、天を見上げたその時だった。ある文字が目に飛び込んできた。
「海老名SA」
ダジャレ。私の長年の夢が、ただのダジャレという悪ノリで実現されていた...。
母ちゃん、ショート久本よ、疑ってゴメンね...。入れ知恵したのはデーブ・スペクターだったんだよ...。
私は泣く泣く「エビ焼き」を購入した。
その味は、ゴルフボールよろしく、パタークラブを用い1個づつ慎重に穴に落としたい程、美味しくなかった。「タコ焼き」がローリン・ヒルを率いる"FUGEES"であるならば、「エビ焼き」はユリを率いる"WEST END"だった...。
一緒にいた仲間に事情を話し、ひどく落ち込んだ私に声をかけてくれた仲間達。
『しょうがないって!また考えればいいじゃん!「明けない夜は無い」って言うだろ!』
『...けど、逆に言ったら...』
私は、また駄菓子屋での情景を思い出した。しかし、そこまで言いかけて言葉を飲み込んだ。もうあの頃のネガティブな自分は嫌だ!「下」を向くのはもう御免だ!ついでに「下」ネタなんて最低だ!
...私は精一杯の作り笑顔でこう言った。
話が海老反るように逸れてしまったが、「ありそうでない」ものはここにも存在していた...。
「ありそうでない」ショールカラーのラガーシャツ。しかも半袖。
私は、この様な商品紹介は「ナシ」という皆様の声に耳を傾けず、「ナシなようでアリ」だと考えている。
地元を離れて数年後、ショート久本と姫路で再会した。そして彼は言った。
『ジツハ アノトキ オマエ 「ハナゲ」デトッタ。ホンマハ 「ゲッツー」ヤッタ。』
まさか野球部を引退して8年にもなろうとしている時、
荒木・井端のごとく、フラレたあの娘と一緒に華麗なダブルプレーを決めてくれたショート久本は、「アリなようでナシ」どころか「100%ナシ」だ。
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