「クサッ!クサッ!」
先日のある朝、そんな声で眼が覚めた。
寝ぼけ眼でテレビに目をやっても、そこには電源の入っていない黒い画面のみ。
その間も「クサッ!クサッ!」という声が私の鼓膜を震わせる。
耳を澄まして良く聴いてみると、その声はベランダのほうから聞こえてくる。
恐る恐るカーテンを開けてみると、木に登って枝を切っている庭師のおじさんの背中が見えた…。
私の部屋は2階にあり、その前には大きな柿の木が生えている。
たくさんの柿が実っているのだが、この時期になるとほとんどの柿が腐っていて、小鳥達がいつも食べにきている。
そして、重力に逆らいきれず地面に落ちるのを待っている柿たち。
そんな、ある意味、秋の風物詩としての役目を終えた柿の木をおじさんが「枝打ち」に来たと言うわけだ。
なるほど。腐った柿が「クサッ!クサッ!」の原因だったのだ。
私は、枝を次々と切られていく柿の木を見て、少し感傷的になりながら、そのままベランダで一服を始めた。
もうほとんどの枝と共に柿の実も切り落としたのか、いつの間にか、おじさんも「クサッ!クサッ!」と言わなくなり、黙々と手を動かしていた。
そんな中、私がタバコの煙を吸い込み大きく息を吐いた為、おじさんが私に気づき、こちらに振り向いた。
何十年と庭師と言う職人仕事に携わっていたことが容易にわかる、ホリの深い、一見怖そうに見えるが人情深そうな、味のある顔をしたその人は、頭に巻いた白い手ぬぐいが日に焼けた肌に似合い、スーツなんか着たらとても似合いそうな渋めのおじさんだった。
「どうも!お早うございます!!お騒がせしてスミマセン!」
私に笑顔で元気な声で挨拶してくれたおじさん。
しかし、その目の上には、それはとてもとても良い感じに腐った柿の実があることに私は気づいていた…。
おじさんは挨拶をしてくれた後、マイケルジャクソンの「HUMAN NATURE」ばりに ゛タメ゛を作ってからの〜…、
「クサッ!クサッ!」
次の瞬間には、長い職人人生の中で、「こんな素早さで枝を切ったのは初めてではないだろうか」というぐらいの早業でその腐った柿がなる枝を切り落としてからの〜…、
「フォ〜…。」
と、ため息。
クサクサおじさんはきっと、僕と同じように「THIS IS IT 症候群」です。
【参考画像】 2分30秒あたりの゛タメ゛
MANHATTAN CLOSET