来。 | 17:41 |
酔。 | 18:27 |
野。 | 14:02 |
家のベランダには猫がやってくる。
野良猫。
メス。
名前は「ネコちゃん」。
名誉の為に言っておくが、直接的かつ大胆でダイナミックなその名前の名づけ親は私ではない。
「ネコちゃん」は朝、9時頃になると必ずベランダにやってくる。
私は眠い目をこすりながら、そして朝日に目を細めつつ窓を開ける。
私を見つけた「ネコちゃん」は、ベランダの隅から私に近寄ってくる。
その顔は笑っているように見える。
ご飯頂戴。
ミルク頂戴。
そう言いたそうな物憂げな目と愛らしい泣き声で近寄ってくる。
私はあらかじめ買ってあるキャットフードと、牛乳を「ネコちゃん」に与える。
チーズが入っていた丸い空き箱と、ちょっとした小皿が「ネコちゃん」用の食器だ。
最近食べすぎだから今日は少なめよ。
この牛乳は買ったばかりだから美味しいよ。
などと「ネコちゃん」に言いながら。
食べている時に頭を撫でてやる。
嬉しそうな「ネコちゃん」。
野良猫とは思えない程の綺麗な毛並みの良さを手のひらいっぱいで感じる。
「ネコちゃん」は他の誰かにも可愛がられているのだろうか。
そんな考えが脳裏をよぎり、嫉妬心からか胸が締め付けられる。
3分程で朝食をたいらげると、私から離れ、またベランダの隅に座る。
もっと一緒にいたい。
もっと仲良くしたい。
触れ合っていたい。
なんならずっとここにいて良いんだ。
そんな想いを胸に、私はサンダルを履きベランダに出る。
その瞬間。
「ネコちゃん」は野良猫に変わる。
まるでスーパーサイヤ人に変身したような目にも止まらぬ速さで、差し出した手をすり抜けていく。
ベランダに1人取り残される私。
食べ残しのキャットフードと共に。
「昔、こんな女の子いたな…。」
苦笑しながらタバコに火をつける。
私の朝はいつもそうやって始まる。
そんな男の最近のヘビーローテーション。
J ROCCはハズさない。
私はブラジャーをハズせない。
Funk & Rock & Soul Mix by jrocc
MANHATTAN CLOSET
光。 | 05:01 |
金。 | 13:14 |
銀。 | 19:13 |
ようやく、手帳の中身が2010年仕様になりました。
外側は一昔前から使っている、決して高級品ではない、どこにでもある黒の合皮の手帳です。
とりわけ気に入っているわけでもなく。
かと言って、「スケジュールがびっしりで、全く休みが無い!!」というような、売れっ子芸人並の仕事量でもないので、めちゃくちゃびっしり書き込むわけでもなく。
なんか思いついたことや、忘れそうなことを書く程度。
はたまた、「取引先さんと商談」なんて時は、仕事できます的なオーラを出す為だけのアクセサリー程度。
もちろん少しは大事なことを書く時もありますが。
けど、肌身離さず持ち歩いています。
理由は簡単。
手帳の脇にコバンザメみたいにくっ付いている「ボールペン」。
この「ボールペン」が好きなのです。
数年前、いわゆる銀座の高級クラブで働いていた時、ホステスのお姉さんから頂きました。
辞める時に…。
ちょっとした縁で黒服として働き始めた、夜の銀座の世界。
あれよあれよと言う間に、「メンバー」というポジションに就くことになりました。
この「メンバー」というポジション、相当大変で、例え大金を貰えようとも2度とやりたくないお仕事です。
というのも、お店にいる20〜30人のホステスをお客様のテーブルに付け回す係りで、言わばホールの大事な要です。
「この人は若い子が好きだからギャルっぽい子を」とか、
「この人はお喋りだから聞き上手の女の子を」とか、
「もうお爺ちゃんだからある程度落ち着いて話のできる30歳ぐらいの女性を」
なんていうお客様の好みを覚えながらはもちろんのこと。
「俺の席にババァを付けんなよ。」
とか直接言ってくるお客もいたりして。
しかし、一番やっかいだったのがホステス同士の好き嫌い。
「あたしの席にはあの子をつけないで!」
「ボトルを開けたいのに、あの子ったら全然飲まないから変えてちょうだい!」
「なんであたしの席に、あんなババァ付けるのよ!若い子に変えてよ!」
なんていう事は日常茶飯事。
左の若いだけが売りのわがままなホステスに
「そこをなんとか、アフター御願いします!」と頭を下げて言っていれば、
右のお姉さんホステスから
「あんたのせいでボトル空かなかったじゃない!」と怒られ、
さらに前からはオーナーに
「お前の付け回しは全然状況が分ってない!」と怒られ、
さらにさらに後ろから、大御所ママさんに
「フルーツが出てくるタイミングが遅い!」と、後輩黒服の失敗でも怒られる毎日。
そして不幸な事に、ウチのお店は特殊で、ママが2人おり、面倒くさいことにそのママ同士が犬猿の仲だったのです。
そんな二人のママにも気を遣わなければいけず、
「ママのお客様同士のテーブルは絶対に隣同士になっては駄目。」なんていう、僕にとっては頭の痛い決まりもあったのです。
度重なるストレスで「じんましん」が出たこともありました。
想い起こせば、世の中の「中間管理職」なんて、へそで茶を沸かすぐらいの事に感じられるような日々だったのです。
そんなある時、先輩のスカウトマンから
「今度、ちょっと口うるさいお姉さんが入るので、頑張って!」
と、半笑いで言われました。
しばらくして入店してきたのはミナミさん(仮名)というお姉さんホステスでした。
いかにも気の強そうな顔立ち。痩せ型で、首には今いくよ並に「スジ」があり、お世辞にも若いとは言えないミナミさん。
それはもう、噂どおりに、こっ酷く怒られました。
ホステスの好き嫌いも激しく僕を困らせ、飲み過ぎると首にたくさん例の「スジ」をたててわがままの言い放題。
そんな気性の荒さは閉店後にもおさまらず、それはもう「お前ちゃんとやれよ!」と説教三昧でした。
「ちきしょ〜〜!」と、ハラワタが煮えくり返る思いで、お恥ずかしながら悔し涙も流しました。
けどある時気づきました。
そんな口うるさくて、酒癖も悪く、時には蹴りも入れてくるミナミさんの事が嫌いではない自分に。
同じようなホステスはたくさん見てきました。
それはそれは扱いにくくわがままな、大嫌いなホステス達です。
けど、ミナミさんは違いました。
言い過ぎたと感じたのでしょうか、次の日には、
「昨日はゴメンね。どうも仕事となると熱くなっちゃって。」
なんて、いつもいつもフォローしてくれました。
お客さんと同伴で行ったお寿司屋さんのお土産をくれたり、
「さっきオーナーに怒られてたみたいだったけど大丈夫?」
と、時間のあるときは声をかけてくれたりと、人一倍、いや三倍は気遣いのできる女性でした。
そういえば、開店前、話の流れで「今日誕生日なんですよ。」といった僕をお客様の席に呼んでくれ、
「この子、今日誕生日なんですよ〜。」
と言って、高級ワインをたくさん飲ませてくれたこともありました。
ホステスという職業にプライドのあるカッコイイ女性でした。
その辺の遊ぶ金欲しさに、適当にやって、時間がくればすぐ帰るようなホステスとは月とスッポンです。
語弊があるかもしれませんが、そもそもホステスという職業は、キャバ嬢みたいに可愛ければ誰でもなれる職業ではありません。
お客様はもちろん、自分のお客様を一緒に迎える黒服や店長、オーナーまでにもホスピタリティーの心がないと銀座では食べていけないでしょう。
僕が銀座を辞めるその日まで、男の黒服達とバーカウンターのチーフ、店長、そしてオーナーしかその日に辞める事は知りませんでした。
もちろんホステスにも、そして2人のママ達にも誰一人として言いませんでした。
誰かに「女の子には言うなよ。」と言われたわけでもなく、なんだか僕の中で勝手に、それが銀座を去る人の流儀なような気がしていたからです。
現にそうやって、次の日からいきなり来なくなったホステスもたくさん見てきました。
そんな「メンバー」最後の日もやっぱり怒られながら過ぎていきました。
そして、さっきまでお客様と弾んだ会話をしていたホステス達も、アフターに行ったり、フラフラと千鳥足で帰途に着いた閉店後、男性スタッフに最後の挨拶を済ませ、原付バイク置き場に着いたその時でした。
「お疲れ様!!」
後ろから、酒焼けでしゃがれた聞き慣れた声が僕を呼び止めました。
ミナミさんでした。
そして隣にはミナミさんと仲の良かった若い後輩ホステスの姿が見えました。
「あんた、今日で最後でしょ。銀座から上がるんでしょ?」
「なんで知ってるんですか?」
「そんなの男達の様子を見てたら分るのよ!男は分りやすい生き物だからね!」
ミナミさんは少し胸を張り、笑いながら続けてこう言いました。
「ホステス何年やってると思ってんのよ!。」
そして、僕はミナミさんから小さい袋を受け取りました。
「餞別よ。」
「うわっ!!マジっすか!有難うございます!」
少しの沈黙のあと、ミナミさんは少し引き締まった顔で言いました。
「次の仕事も頑張って!じゃ〜ね!」
その後、
「お疲れ様でした!」
という後輩ホステスの声を最後に、2人はお客様の待つアフター先へと消えていきました。
それは3分ほどの短い会話でしたが、なぜか銀座で働いた日々のようにとても長く感じました。
家に帰って真っ先に開けた袋の中に入っていたのが、その「ボールペン」です。
自分では間違えても買えないような、高そうなキラキラと輝いている「ボールペン」でした。
ちょうど、そんな「ボールペン」を手に取って眺めていると、携帯電話に1通のメールが届きました。
『今日の付け回し良かったですよ。
たくさんの言う事聞かないホステスと、2人のママ、そして口うるさいオーナーと、あんなに「メンバー」をやりにくい環境でよくやってたと思います。
次のステップでも今まで通りのあなたでいればどんな職種でもきっと上手くいくと思いますよ。
少しはカッコイイ物も身につけないと、この先あるかもしれない商談も進まないと思うので、こんな物ですが。
機会があればご飯でも行きましょうね。』
という内容のメールでした。
さすがに嬉しくて、頂いたメールはずっと保存していました。
ところが少し前、携帯が故障したと同時に過去のメールも全て失ってしまいました。
ミナミさんのメールも。
ま〜、けどいいのです。
この「ボールペン」がありますし。
そして、あの首の「スジ」をたてて怒る光景はいつまでも思い出として焼きついていますし。
あれからミナミさんとは会ってもなく、連絡も取っていません。
万が一、いつの日か、商談後の接待で銀座に行けるような身分になったら、連絡してみようと思います。
胸にはこの「ボールペン」を挿して。
そんな商談先の連中がミナミさんを見て、黒服に「ババァは付けるな。」なんて言った日には、
「この商談は無かった事に。」
なんて言える仕事の出来る男になる為にも、ミナミさんのように真っ直ぐに頑張らねばと思うのであります。
僕にとっては夢見たいな話ですし、きっとミナミさんは、
「あんたが銀座で飲めるようになった時には、あたしは死んでるよ。」
と、例の「スジ」をたてて言うと思いますが。
いくら給料が良くても、もう2度とやりたくない銀座の夜の世界ですが、そんな夜の世界にはお金を払っても学べない何かを教えてもらったような気がします。
次の日、辞めた事を知り、ママ達はもちろん、多くのホステスさん達から、お疲れ様メールを頂きました。
「結構居心地は悪くない場所」
銀座の夜はそんな場所だと、後になって分ったような気がします。
少し古ぼけてきてしまった、その「ボールペン」を見ながらそんなことを思う、冷たい雨の降る、寒い寒い1日なのです。
MANHATTAN CLOSET
新。 | 19:26 |
新年明けましておめでとうございます。
今年もお付き合いの程、宜しくお願いします。
年末年始は、実家の姫路でのんびりさせて頂きました。
若い時のように、
「クラブでカウントダウンじゃ〜!!」
なんていうのは遠い昔。
30歳もとっくに越えてきますと、「新年の計は元旦にあり」ではないですが、ゆっくりと気持ちを落ち着け、雑念を振り払い、厳かな気分で新年をむかえるのがお決まりになってきています。
「ガキの使い」からNHKの「ゆく年くる年」にチャンネルを合わせ、缶ビールに口をつけると、どこからともなく「除夜の鐘」が聞こえてきます。
正確に言うと、「どこからともなく」ではなく、「アズミ君の家」からです。
同じ小、中学校で同級生だった「アズミ君」は、家がお寺で、講堂ではお父さんが空手教室をやっていました。境内の敷地面積は広く、小学校の幼い僕にも「お金持ちの家」だというのが分かりました。
もっとも「坊主、丸儲け」なんていう、風刺の効いた言葉は、当時、知る由もなく…。
「アズミ君」は頭も良く、足も速くスポーツ万能。空手も黒帯、おまけにハンサムでお金持ち。女子の人気も独り占め…。
漫画でいえば、出来杉君。
無敵艦隊です。
そんな「アズミ君」の家には、小学校から中学校を卒業するまで仲間同士で集まっては、大晦日の度に「除夜の鐘」を鳴らしに行ってました。
忘れもしない中学2年の時、「アズミ君」が、隣町にも噂が広まるほどの皆の憧れである中学校で人気ナンバー1の女の子を「除夜の鐘」に招待したことがありました。
「アズミ君」は言いました。
「俺ら、付き合ってんねん。」
その時からでしょうか。
忍耐。
努力。
根性。
ハングリー精神。
がむしゃらに。
成せば成る。
素直。
男は顔じゃない。
などの言葉は、そこにいた男子全員で捨てようと決めました。
あれから、ちょうど20年。
節目のこの年。
天皇陛下には即位20年式典でEXILEが、
僕には「アズミ君の家の除夜の鐘」をかき消すほどの暴走族の爆音が、新しい年を祝ってくれました。
耳を澄まして、ふと考えました。
あの「除夜の鐘」は誰が鳴らしているのだろう。
もしかしたら「アズミ君」は当時のあの娘と結婚して、美男美女同士から、これまた男前の息子が生まれて、息子が呼んだ校内で一番のかわいい娘が「除夜の鐘」を鳴らしている…。
そんなルーティーン。
あると思います。
アーメン。
来年は20年ぶりにあの鐘を鳴らしに行ってみようか…。
そんな厳かな気分とは裏腹な、雑念だらけの新年。
京都は下鴨神社で引いたおみくじは、その昔、笑いの神の申し子「山崎邦正」も引いた、まさかの…。
「平」…。
「待ち人」は、用事があって来ないそうです。
ないと思います。
MANHATTAN CLOSET
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